デザインを教えてくれたのは、ジャズのレコードだった
デザインとの最初の出会いを話してみます。
いま、デザイナーと名乗って仕事をしているわけですが、こんなことを?十年も続けられていることが自分でも不思議でなりません。
本当になりたかったのは…
実はコピーライター(広告の文章を書く人)という職業につきたかった、ということは折に触れていろいろな機会に話したりしています。
宣伝会議という出版社が主催している『コピーライター養成講座』というのがあるんですが、学生の一時期、その通信講座を受けていました。当時はここから多くの名だたるコピーライターが誕生し、コピーライターになる登竜門だったんですね。
文章を読むことも書くことも好きで、仮にも高校では作文で校内一の成績を誇っていた僕は、文章で表現することにある程度の自信があったような気がします。(相当な自惚れ!)
しかし、しばらく課題を出しては添削を受ける日々を繰り返し、他の講座生の課題作品を見るにつけ、レベルが違いすぎて、どんどんとその自信は崩れ去っていきました。世間は広い。井の中の蛙もいいところでした。
こればかりは天性のものもあり、その望みはさっさと捨てました。
広告にとって『コピー』と『デザイン』は親子や兄弟、相棒のようなもので、切っても切り離せない関係です。広告への思いもあり、うまい絵なんか描けなかったのですが、コピーと同等に考えていたデザインの道に進んでみようと思い始めました。
師匠を見つける
そんなときに出会ったのがジャズのレコードジャケットです。
1958年1月にレコーディングされた、ソニー・クラーク・トリオの『クール・ストラッティン』というアルバム。自分が生まれる前という古い作品にも関わらず、このデザインには痺れました。
何よりもこんな写真を撮り、切り取った構図がすごい。タイトルのタイポグラフィが表現しているように、音楽同様、クール(かっこよく)でしかもストラット(気取って歩く)しているんですね。
この時代のニューヨークってこんなに粋だったのかなと想像させられます。
ジャズという音楽自体は好きだったのですが、LPという30センチ×30センチのカンバスにデザインされたジャケットに興味を持つようになって、ますますのめり込むようになりました。その痺れるようなセンスに身震いをして、バイトで稼いだお金を相当数のジャケ買いに費やしていました。
購入したジャケットたちは、タイポグラフィー、配色、レイアウト、写真、モチーフ等々、その頃の僕にとってデザインの師匠であったことは間違いありません。特に、ブルーノートというレーベルのデザインを多く担当していたリード・マイルスという人のデザインには影響されていました。
リード・マイルス(Reid Miles, 1927年7月4日 – 1993年2月2日)は、アメリカのグラフィックデザイナー。ジャズのレコードレーベルの一つであるブルーノートのジャケット・デザインの多くを手がけた。
— Wikipedia
デザインの基礎的なエッセンスが、学校などではなく、これらによって身についたのは間違いないと思っています。
これはケニー・バレルというギタリストのアルバムですが、メインビジュアルにはアンディ・ウォーホルのイラストレーションが使われています。このトリミングと配置がすごい。
大胆な下部の余白が不安定感を与え、いかにもジャズ的です。浮遊するような軽妙なギターサウンドが聞こえてくるようです。
リード・マイルスがドイツのバウハウスの影響下にあったことは、そのデザインを見てのとおりですが、そのジャケットデザインを模範にしたという意味では、僕もまたバウハウス的な(?)手法に鼓舞されていたのだといえるんでしょう。
まあ、その話はまたおいおい。